2008年 04月 29日
Triumph T110 (ワンテン) |

1959年にボンネビルが生まれるまでスポーツモデルとして愛された一台であり、このT110、通称「ワンテン」をツインキャブにしてトライトンを組んだROCKERも多かったそうだ。本車両はシングルクレードル・フレームに、マウスオルガンエンブレムが装着されている、50年代後期製。60年代に入るとバスタブが装着され、ツアラーとしての色を強めていく。
先週日曜日に知人が連れて行ってくれた、Kさんのガレージにて。
このT110(ワンテン)、ある方の形見である。その方、Uさんの元へは渡英前に何回かお邪魔させてもらった事があった。家からバイクで20分ほどのご近所さんで、まだトライアンフを頻繁に見た事が無かった頃。「トライアンフが見たい」という思いで厚かましくもお邪魔して、夏の暑い日にじーっと眺めていた事を思い出す。
ある時、「ちょっと乗ってみても良いぞ。」とエンジンをかけてくれて、数百メートルだけだったが、右チェンジにビビリながら乗せてもらった。ブルブルと手に来る振動とびっくりするぐらい利かないフロントブレーキに驚いた、素敵な記憶だ。
渡英後、しばらくして訃報を聞いた。Uさんが所有されていた愛車たちは友人達に引き取られていったそうだ。
そして今、目の前にあるワンテンは、まさにその車体である。
カラーリングの所為だろうか、大阪の下町に違和感なくトラが溶け込んでいる。
音が聞きたくて、エンジンをかけてくださいとお願いすると、現オーナーのKさんは乗ってきても良いと言ってくださった。
5年以上の歳月を経て、同じバイクに乗る。
キック2発で元気に目覚めたワンテンのはじける排気音は、あの頃の興奮を思い出させ、ナセルヘッドのぼってりしたヘッドライドまわりは、なんだかはにかみ屋さんだったUさんを想起させる。蝉の声と、トラの音が張り合っていた夏の日の事。
線路沿いの、気持ちよく開けた道を流す。春の日差し、グローブが無くても心地よい。今や右チェンジも慣れたもの。じっくりとそのフィーリングを噛み締める。ステアリング・ダンパーが閉められていたため、やけにフロントが重く感じたが、ぶるぶると手に気持ちの良い振動を与えながら、その車体は淀みなく加速していく。
3速に入れて、アクセルを引っ張るとドドドッという大振りな振動からグワッーという加速に変わる感じがたまらない。何マイル出ているのか、そんな実際のスピードを気にする事は無い。体感的に速く、気持ち良いのだから。
ナセルヘッドの中では、クロノメトリックが小気味良く、速度を示してくれている。速度とギアの目安が描かれたメーターは「ノスタルジック」を十分に感じさせるもので、アンティークの時計を身に付けているように心が弾む。
「ただいま」と、トラにつぶやいた。
MODE BY ROCKERS HIROYUKI
http://www.mode-by-rockers.com




by mbr_london
| 2008-04-29 16:06
| MOTORCYCLE